経済学

序数的効用と基数的効用

著名な日本の経済学者である神取道宏先生が執筆している『ミクロ経済学の力』というミクロ経済学のテキストがあります。 ミクロ経済学の力作者:神取 道宏日本評論社Amazon それなりに高いレベルの内容を扱っているにもかかわらず、実例も豊富で、非常にわか…

EUのCBAM(炭素国境調整措置)についての論文の公開

早稲田大学の有村俊秀先生と共同でおこなったEUのCBAMについての研究をまとめた論文が出版されました。以下の場所にあります。 https://doi.org/10.1016/j.japwor.2024.101242 EUが導入したCBAM(炭素国境調整措置)がもたらす影響を、応用一般均衡モデル(c…

経済学のテキストのおかしいところ

shiro-takeda.hateblo.jp 以前に上のポストで、「逆S字型の総費用曲線」というものが経済学のテキスト(入門書)に出てくる理由がわからないということを書きました。 逆s字型の総費用曲線は、1)経済学の応用分野では全くでてこない、2)現実の経済を分析す…

「脱成長(degrowth)」について

私はよく知らなかったのですが、経済成長を追求することは不要、あるいは望ましくないというような考え方があるそうです。「脱成長(degrowth)」というそうです。 この「脱成長」という主張を「ノア・スミス「脱成長:いらないよそんなの」(2023年5月24日…

応用一般均衡分析に関する論文

内閣府の『経済分析』に以下の論文を書きました。 武田史郎 (2023),「カーボン・ニュートラルに向けた政策の経済効果のモデル分析」,内閣府経済社会総合研究所『経済分析』,第 206 号, pp.199–219,https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/bun/bun20…

「市村地球環境学術賞」

この度、早稲田大学政治経済学術院の有村俊秀先生と青山学院大学経済学部の松本茂先生と共同で、「リコー(RICOH)」の創業者である「市村清 」氏が設立した「市村新技術財団」が授与する「市村地球環境学術賞」を受賞することになりました。「市村地球環境…

EUのCBAM(炭素国境調整措置)についての論文

EUは現在CBAM(carbon border adjustment mechanism、炭素国境調整措置)の導入を検討しています。CBAMとは、簡単に言うと、CO2などの温室効果ガスの排出規制が緩い国からの輸入財に対して、その炭素含有量に応じて税金(関西)を課すというような政策のこと…

GAMSのマニュアル

以前はGAMSには主なマニュアルとして以下の二つがありました。 公式の「GAMS: A User's Guide」 McCarl GAMS User Guide 上がGAMSの開発元が直接作成しているもので、下は Bruce McCarl が独自に作成したものです。上は公式のマニュアルですが、公式のマニュ…

逆S字型総費用関数

ミクロ経済学のテキストに「逆S字型総費用曲線」というものがよく出てきます。 Cost curve - Wikipedia 上のページの真中あたりの画像に描かれているTCという曲線のことで、生産量が増えるにつれ最初は傾きがだんだん緩やかになるが、途中から傾きが急になっ…

CGE分析の成立過程

↓のページ、EYという会社のページのようですが、なぜかそこでCGE分析の成立過程と概要について説明されています。 CGE分析の成立過程および概略 このページのCGE分析についての説明は事実と異なる部分が多いと思います。非常に短い文章ですので、直接リンク…

応用一般均衡モデルによる炭素税の地域別効果の分析

カーボンプライシングのフロンティア カーボンニュートラル社会のための制度と技術日本評論社Amazon 最近、↑の書籍が発売されましたが、この中に私が執筆した以下の論文が含まれています。 武田史郎(2022)「応用一般均衡モデルによるカーボンプライシング…

CGEモデルはブラックボックスか?

以下のサイト、CGE分析のレクチャーを提供する会社(組織)のサイトです。 このページの最初に以下のような説明があります。 CGE models are NOT 'black boxes'. Given an understanding of general equilibrium (GE) microeconomics, and some macroeconomi…

応用一般均衡分析用のデータ作成プログラム

応用一般均衡分析(CGE分析)用のデータ作成プログラムを GitHub の以下の場所に置きました。 Japanese_SAM_for_CGE これは「日本の産業連関表」と「3EID データ(CO2 排出量のデータ)」を CGE 分析で利用しやすくするための GAMS のプログラムです。具体的…

応用一般均衡分析入門のアップデート

『応用一般均衡分析入門』のページにある応用一般均衡分析(CGE分析)の入門用の解説書をアップデートしました。 ちょこちょこ修正はしていましたが、今回は大きく変更している部分があります。具体的には、第7章、第15章で日本の産業連関表のデータを利用し…

空間的応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル)

応用一般均衡モデル(computable general equilibrium model、CGEモデル)に「空間応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル、SCGEモデル)」というものがあります。 経済学で「空間(spatial)」という用語が使われる場合は、いわゆる「Spatial economics(空…

環境研究推進費のシンポジウム(2021年11月26日)

私が参加している環境研究推進費のプロジェクト「暗示的炭素価格を踏まえたカーボンプライシングの制度設計-効率性と地域経済間の公平性を目指して-」のシンポジウムが2021年11月26日(金)14:00-16:35に開催されます。 https://www.carbonpricing.net/sym…

Excel と R と GAMS で産業連関分析

私は普段、CGE分析などのシミューレションをするのに基本的に GAMS というソフトウェアを利用しています。最近、簡単な産業連関分析を試しにしてみようとしたのですが、GAMS よりも他のソフトの方がやりやすいかもと思い、 Excel 統計ソフトのR GAMS の3つを…

GAMS における文字コード

[注]以下の話は MS Windows で GAMS を利用する際の話です。Windows上でしか動かないgdxxrw.exeというプログラムに関連する話ですので。 昔の Windows 上の GAMS は日本語を含むプログラムのファイルの文字コードとして Shift JIS しか扱えませんでしたが…

日本の環境税制改革(二重の配当仮説)についての研究

早稲田大学の有村俊秀先生との共同研究である以下の論文が公刊されました。 Takeda, S., Arimura, T.H. (2021) "A computable general equilibrium analysis of environmental tax reform in Japan with a forward-looking dynamic model." Sustainability S…

応用一般均衡分析の解説書のアップデート

以下のページに置いてある応用一般均衡分析の解説書をアップデートしました。 https://shirotakeda.github.io/ja/research-ja/cge-howto.html といっても、ほとんど内容は変更していないです。LaTeX を使って作成している文書ですので、クラスファイルを変更…

経済学部の大学院進学率

朝日新聞出版社が毎年出している「大学ランキング」という本があります。 様々な観点での日本の大学の順位を掲載した本です。例えば、 就職率 公務員就職者数 入試志願者数 科研費の配分金額 出身者の国会議員数 など多様な観点からのランキングがのっていま…

新しい書籍「Carbon Pricing in Japan」

私も二つの章を担当した「Carbon Pricing in Japan」という書籍が出版されました。 有村俊秀先生(早稲田大学)と松本茂先生(青山学院大学)のお二人が編集をされた本です。タイトル通り、日本における炭素税価格(温暖化対策)などについての研究をまとめ…

ノーベル経済学賞の意義

今年のノーベル経済学賞はオークションの専門家のアメリカ人の二人が受賞しました。 よく言われることなのですが、ノーベル経済学賞はアメリカ人の受賞が圧倒的に多いです。Wikipedia を見てみてください。 ノーベル経済学賞 - Wikipedia ただでさえアメリカ…

生涯効用の計算(つづき)

前の記事「生涯効用の計算」で書いたように、林貴志先生の『ミクロ経済学(増補版)』(以下、林テキスト)で、生涯効用や期待効用についての、序数性、基数性の問題が扱われています。効用の序数性、基数性についてこの教科書ほど深く扱っているものはない…

生涯効用の計算

一個前の記事「負の値をとる変数の変化率(?)」で、負の値をとる変数の変化率の話を書きました。なぜそんなことを書いたのかというと、動学モデルで生涯効用の計算をする必要があったからです。 「生涯効用」 マクロ経済学などでは家計の動学的な最適化行…

負の値をとる変数の変化率(?)

注(2021年5月1日追記) このページは「マイナスの値をとる変化率」のことではなく、「マイナスの値をとる変数の変化率」の話をしています。 今まで変数の変化率は最初の値がゼロでなければいつでも定義(計算)できるとばかり思っていたのですが、馬鹿みた…

応用一般均衡分析とCGE分析

私の研究の専門は"computable general equilibrium analysis"という分野です。略してCGE analysisになります。これを日本語ではよく「応用一般均衡分析」と呼びます。しかし、"computable general equilibrium analysis"の正確な日本語訳は「計算可能な一般…

論文における参考文献の形式・情報

昔は経済学では研究は個人でおこなうことが多く、論文も単著が多かったと思いますが、今では経済学でも共同研究が多くなり、論文も共著が増えてきました。正確な割合はわかりませんが、半分以上の論文は共著論文じゃないかと思います(単なる私の印象ですが…

BibTeX用の文献データベース

昔は bib ファイル(BibTeX用のデータベース)は自分で作成するものでした。しかし、最近はネットから bib ファイルの情報を入手したり、文献データベースソフトから bib ファイルを作成できるようになりました。英語の論文なら、例えば 雑誌の出版社のペー…

MPSGEについての文書の改訂

「このページ」に GAMSの MPSGE の利用方法について説明した文書を置いています。まだ書きかけでずっとほったらかしにしていたのですが、久しぶりに内容を追加しました。 モデルの例として、1) 排出権取引による排出規制のモデル、2) 炭素税による排出規制の…