経済学部の大学院進学率

朝日新聞出版社が毎年出している「大学ランキング」という本があります。

様々な観点での日本の大学の順位を掲載した本です。例えば、

  • 就職率
  • 公務員就職者数
  • 入試志願者数
  • 科研費の配分金額
  • 出身者の国会議員数

など多様な観点からのランキングがのっています。

そのランキングの一つに「大学院進学率」という数字があります。これは卒業者の中で大学院に進学した割合を示す数値です。

大学院への進学は理系では多く、文系では少ないという傾向があります。これは理系ですと大学院の学位(修士号)が就職にプラスになることが多いのに対し、文系ではプラスにならないことが多いためだと思います(もちろん、分野や個人によって差はありますが)。

それもあり、この数値については学部別にランキングが分けられています。例えば、2019年版では「工学部」での大学院進学率ランキングは以下のような値になっています。

工学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 京都大学(工) 87.5
2 東北大学(工) 87.1
3 長岡技術科学大学(工) 86.3
4 名古屋大学(工) 85.8
5 大阪大学(工) 84.5



基本的には偏差値の高い国立大学が大学院進学率が高くなるという結果になっています。これは偏差値の高い大学ほど、より高度な内容の勉強をしたい(そして、場合によっては研究者になりたい)学生が多いということを反映しているのだと思います。

以上の傾向は、「理学部」や「農、生物系学部」でも変わりません。

理学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 東京大学(理) 85.7
2 東北大学(理) 82.6
2 北海道大学(理) 82.6
4 京都大学(理) 80.3
5 大阪大学(理) 77.7



農、生物系学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 京都大学(農) 76.8
1 東北大学(農) 76.8
3 神戸大学(農) 76.2
4 名古屋大学(農) 75.8
5 北海道大学(農) 74.3



一方、上で書いたように、文系になると進学率は大幅に下がります。例えば、法学部のランキングは以下のようになります。ただ、進学率は低くなりますが、進学率が高いのは偏差値が高い大学という点は理系と同じです。

法学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 京都大学(法) 24.3
1 一橋大学(法) 22.7
3 東京大学(法) 20.3
4 大阪大学(法) 18.3
5 北海道大学(法) 17.4



文学部・外国語学部も同様の傾向にあります。

文、外国語学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 東京大学(文) 23.3
2 京都大学(文) 22.4
3 お茶の水女子大学(文教育) 21.7
4 広島大学(文) 17.8
5 相愛大学(人文) 16.7



なぜこんな話をしているかというと、経済学部(経済系学部)の進学率だけ他とかなり違うからです。以下が「経済、経営、商学部」などの経済系学部でのランキングです。

経済、経営、商学部のランキング

順位 大学名 進学率(%)
1 岡山商科大学(経済) 35.5
2 城西国際大学(経営情報) 8.4
2 福山大学(経済) 8.4
4 大阪大学(経済) 8.0
5 一橋大学(商) 7.4



他の学部では、進学率トップなのは東大、京大のような偏差値もトップの大学です。しかし、経済学部については、トップなのは岡山商科大学という大学で、しかも、ここだけ35.5%という飛び抜けて高い数値で1位になっています。

岡山県人を除いて)多くの人は岡山商科大学という大学を知らないと思います。案外偏差値が高い大学なのかと思われるかもしれませんが、そんなことはないです。今、ネットで調べたら37.5でしたので、偏差値という基準ではかなり下の方の大学ということになります。

また大学院へ進学していると言っても、レベルの低い大学院に進学しているのではないかと疑う人がいるかもしれませんが、進学先の大学院は経済系では評価が高い大阪大学神戸大学京都大学などの有名な大学の大学院だそうです(ホームページを見れば具体的な進学先の大学が掲載されています)。

しかも、これは2019年度1年だけの話ではなく、ここ数年ずっと経済学系では日本で一番進学率が高い状態が続いているようです。

東大、阪大、一橋など、経済系ではトップクラスの大学でさえ、せいぜい7、8%しか大学院進学率がいかないのに、なぜそんな偏差値の低い岡山商科大学の経済学部がこれほど高い進学率になっているのでしょうか?(2位、3位の城西国際大学福山大学も偏差値が低いのですが、ここではそれはちょっと置いておきます)

私もはっきりとはわかりませんが、岡山商科大学の経済学部には留学生(特に中国人)が編入学で入学し、その留学生達が有名大学の大学院に進学しているようです。

大学院に行きたいのなら最初から有名な、レベルの高い大学に入るのが普通のように思えますが、有名大学に直接入るのは難しいのだと思います。それで、岡山商科大学に入って大学院を目指すという少し変則的なルートが人気があるようです。

実際、岡山商科大学は大学院進学(大学院入試)のためのサポートが充実しているらしく、上述のように、多くの学生が有名大学の大学院に入学しています。そのような実績があるので、(有名大学には直接は入れないが)大学院に行きたい留学生に人気があるのだと思います。

岡山商科大学の経済学部の進学率が高いと何か問題があるというわけではないのですし、むしろ大学院進学率が高いのはそのためのちゃんとした教育を提供しているという意味でいいことだと思います。ただ、日本人にはあまり人気がない(その結果、偏差値は非常に低い)一方で、留学生(特に中国人)には人気があり、大学院進学率だけ飛びぬけて高くなるというのは、ちょっとアンバランスというか、おかしいような気がします。実際、他の学部では見られないちょっと珍しい傾向ですよね。

前に「経済学部の大学院進学率 - 武田史郎のウェブログ」という記事で、日本の経済学検定で上位の成績をとっているのが中国人だらけという話をしたのですが、今回も中国人が関係しています。中国人の留学生は日本人と比べて、大学院に入るということに貪欲のようです。

ちなみに私がいる京都産業大学の経済学部ですが、「公表されている情報」によると、2019年度の卒業者は542人で、そのうち大学院進学者は7人だそうです。ですので、2019年度の大学院進学率は約1.3%です。ほとんどの学生は就職しますからこんなものだと思います。