空間的応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル)

応用一般均衡モデル(computable general equilibrium model、CGEモデル)に「空間応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル、SCGEモデル)」というものがあります。

経済学で「空間(spatial)」という用語が使われる場合は、いわゆる「Spatial economics(空間経済学)」を思い浮べる人が多いのではないでしょうか。空間経済学は産業集積や都市形成などの要因、影響を分析するような分野です。

空間経済学 - Wikipedia

つまり、多数の地域が存在する状況において、なぜ特定の地域に産業や人が集中するようなことが起こるのか、そしてその結果、どのようなことが起こるのかを分析するような分野です。

私も昔 spatial economics の著名なテキストである以下の本を読んだので、spatial といったら spatial economy を思い浮べます。

しかし、SCGE モデルの spatial には特に上のような意味はなく、単に「multi-region CGEモデル(多地域CGEモデル)」のことを「SCGEモデル」というような呼び方をしているようです。つまり、多数の地域を含んでいて、その間で経済取引があるようなCGEモデルのことです。

例えば、https://www.mlit.go.jp/common/000144962.pdf という資料でSCGEモデルを次のように説明しています。

複数の地域を前提に、複雑に相互依存する経済主体の間を連鎖的に波及するプロジェクトの経済効果について、どの地域の、どの経済主体にどれだけの効果が帰着するのかを把握するために考案された分析手法。

この説明では「多地域CGEモデル」という以上の意味はないように思えます。

また、https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/hapyo/04/b32.pdf では

空間的応用一般均衡モデル(Spatial Computable General Equilibrium:SCGE モデル)は,土木計画学の分野では交通基盤整備の便益評価などに用いられてきた分析手法である.一般均衡モデルを多地域に 拡張して地域内及び地域間の経済連関性を表現し(「空間的」),実際の社会経済統計等のデータを用いて政策の効果を計算できる(「応用」)モデルと考えると分かりやすい.

と説明していて、やはり多地域のCGEモデルのことのような説明をしています。

それでは何が違うのかというと、交通や輸送などに主に焦点を当てて研究している研究者(主に工学系の研究者)は「SCGEモデル」という用語を使って、そうじゃない分野(例えば、国際的な貿易や環境など)を研究する分野の人は「多地域モデル」を使うというだけのようです。なぜ違う言い方を使うようになったのかはよくわかりません。

経済学が専門の人が「空間CGEモデル」、「spatial CGEモデル」と聞くと、産業集積か何かの研究かと思いう人が結構いるんじゃないかと思いますが、そういう意味ではないようです。