日本の環境税制改革(二重の配当仮説)についての研究

早稲田大学の有村俊秀先生との共同研究である以下の論文が公刊されました。

Takeda, S., Arimura, T.H. (2021) "A computable general equilibrium analysis of environmental tax reform in Japan with a forward-looking dynamic model." Sustainability Science, 16(2), 503-521, https://doi.org/10.1007/s11625-021-00903-4

オープンアクセスにしていますので誰でも読むことができます。以下、簡単に論文の内容を紹介したいと思います。

分析の内容

この論文は、日本において2050年までにCO2排出量を80%削減するという目標を炭素税によって実現しようとした場合の経済的な影響を応用一般均衡モデル(CGEモデル)を用いて分析した研究です(研究をしていた時点では、まだ「2050年までに80%の削減」が長期目標だったのですが、既にご存知の通り、カーボンニュートラルに変わりました)。

炭素税という政策は政府に税収をもたらします。経済学で炭素税という政策を分析する際にはその税収をどう使うかが一つのポイントになります。よくあるシナリオは「炭素税収は家計に一括(lump-sum)で還元する」というものですが、そうではなく、既存の税(例えば、所得税法人税、消費税など)を減税することに使うというシナリオもあります。後者のように、炭素税の導入に伴ない既存の税を改革(減税)するという政策を「環境税制改革」と言います。

この論文では

  • 純粋な炭素税(税収を家計に一括で還元するシナリオ)
  • 環境税制改革

の効果を比較しています。環境税制改革としては、炭素税の導入とともに、1) 所得税の減税、2) 法人税の減税、3) 消費税の減税という3つのシナリオを考えています。

分析の結果

CGEモデルを使ったシミュレーションをしていますが、

  • 純粋な炭素税よりも環境税制改革の方がよいケースが多い
  • 特に、GDPや所得という基準からは法人税減税という環境税制改革が望ましい

という結果が得られました。

ただし、どの政策が望ましいかは、どの経済変数(GDP、所得、効用)を重視するかにもよりますし、どの時点(近い将来か、遠い将来か、期間全体か)での影響を重視するかにもよるので、単純に環境税制改革の方がよいというわけではないです。

上で書いたように、オープンアクセスですので、論文も読めますし、以下のページにシミュレーションのプログラムを置いてありますので、興味がある方は見てください。

The double dividend analysis for Japan