経済学のテキストのおかしいところ

shiro-takeda.hateblo.jp

以前に上のポストで、「逆S字型の総費用曲線」というものが経済学のテキスト(入門書)に出てくる理由がわからないということを書きました。

逆s字型の総費用曲線は、1)経済学の応用分野では全くでてこない、2)現実の経済を分析する際にもほとんど利用されない、つまり、経済学の概念として重要性が非常に低いと思われるのに、多くの経済学のテキスト(それも入門書)でとりあげられている理由がわからないというようなことです。

ただ、全く検討もつかないというわけではなく、なんとなくこんな理由ではないのかなと思うことはあります。それは「公務員試験や資格試験などの経済学の問題に逆s字型の総費用曲線が取り上げられることが多いから」ということです。

公務員試験では、国家公務員の場合はもちろん、地方公務員の場合でも経済学の科目・内容が含まれることが多いと思います。また、公認会計士中小企業診断士などの資格試験にも(選択科目の場合もありますが)経済学が含まれています。

経済学のテキストの主な用途は大学の経済学の授業での利用だと思いますが、公務員試験、資格試験の勉強用にも利用されることは多いと思います。こういった各種の試験の勉強向けにもテキストを利用できるようにするには、そういった試験によくとりあげられる内容をカバーする必要があります。それが「逆S字型費用曲線」がテキストでとりあげられる理由ではないかと思います。

各種試験に取り上げられるので経済学のテキストでも扱われるというのは自然なことだと思いますが、経済学上の重要性があまりないものまで「試験の問題に出るから」ということでテキストでとりあげることはあまり望ましいことではないと思います。

さらに、もっと問題なのは、一度、多くのテキストで扱われるようになると、テキストで扱われるから各種の試験で取り上げるということにつながって、

経済学のテキストでとりあげる → テキストで扱われているので各種試験でとりあげる → さらに、経済学のテキストでとりあげる → •••

のようなサイクルが生じることだと思います。一度このようなサイクルが生じると、その内容が経済学上あまり意味のないものであっても、多くのテキストで扱われ続けることになってしまいます。その結果、改まってよく考えると「なぜこんなことをテキストで取り上げているの?」というようなトピックがテキストに含まれるようになります。

ここまでは「逆S字型費用曲線」を例として話をしましたが、他にも経済学上は重要ではないのに、テキストではなぜか取り上げられるものはあると思います。

例えば、マクロ経済学の金融政策のところで、金融政策の代表的な手段として「(法定)準備率の操作」がよくとりあげられています。例えば、私が持っている本ですと以下のような本でとりあげています。

  • 浅子和美,(2021),『経済学入門15講』,ライブラリ経済学15講[BASIC編],新世社
  • 井堀利宏,(2016),『入門経済学[第3版]』,新世社

しかし、下のページで説明されているように、91年10月以降、準備率は変更されていません。つまり、30年も使われていない政策であり、代表的な金融政策どころか、むしろ政策としての重要性は非常に低いと思います。

www.boj.or.jp

それにもかかわらず、あたかも主要な金融政策手段の一つのような形で入門書で取り上げられることが多いです。これも「準備率の操作」というトピックが各種試験でよくとりあげられるからではないかと思います。

最近のテキストの中には、「準備率の操作はあまり利用されることがなく、政策としての重要性は低い」という説明をしているものもあります。例えば、以下のテキストです。

ただこういうテキストであっても、「公定歩合操作(基準貸付利率)」,「公開市場操作」とともに金融政策の手段として「準備率の操作」を紹介しています。現状では金融政策の一手段として紹介する意味はほとんどないないと思いますが、やはり試験で取り上げられるという可能性を考えると、一応、紹介しておかないとということで取り上げているのではないかと思います。

私自身、授業では経済学のテキストを利用して教えているのでこんなことを言うのもちょっと無責任ですが、経済学のテキストでは↑のようなことがあるので、その内容を馬鹿正直に受けとらないほうがよいと思います。