UDフォント

最近、私の大学では「UDフォント(ユニバーサルデザインフォント)」が推奨されるようになり、大学の書類などにUDフォントが使われることが多くなりました。

UDフォントは普通パソコンでよく利用されるフォント(普通の明朝や普通のゴシック)よりも読み易く作成されているそうです。Windows ではモリサワの「BIZ UD明朝」、「BIZ UDゴシック」、「UDデジタル教科書体」などがインストールされているので、追加費用なしで利用できます。

大学の書類ではこのうち「UDデジタル教科書体」がよく使われているのですが、私はこのフォントの見た目は嫌いです。教科書体自体はむしろ好きなのですが、「UDデジタル教科書体」はゴシック体のように線の太さが均一なので、これを明朝体の代わりに利用すると、全部の文字がゴシック体で書かれているときと同じように見にくく感じます。

読みやすいということですが、私には読みやすくないです。

ところで、「フォントワークスUDフォントエビデンス」という文書はUD フォントについて以下のように説明してます。

UDフォントとは、[可読性][視認性][判別性]に優れ、年齢・性別に関係なく、誰もが読みやすく、見やすいデザインが施された書体として各メーカーからリリースされています。

「年齢・性別に関係なく、誰もが読みやすく、見やすい」と言っていますが、年齢はわかりますが、性別によって読みにくい、見にくいなんていうフォントってそもそもあるのでしょうか?例えば、男が読みにくいフォントだとか.性別によって読みやすさが変わるフォントなんて思いつきませんが...

CGE分析の成立過程

↓のページ、EYという会社のページのようですが、なぜかそこでCGE分析の成立過程と概要について説明されています。

CGE分析の成立過程および概略

このページのCGE分析についての説明は事実と異なる部分が多いと思います。非常に短い文章ですので、直接リンク先のページを見てもらいたいのですが、以下のようなことが書かれています。

  • マクロ計量モデルは「ルーカス批判」によってその欠点が指摘されたが、CGEモデルはルーカス批判の指摘する問題点に対応するために、ミクロ的基礎付けを持つモデルとして開発された。

CGEモデルがミクロ的基礎付けを持つモデルであるのはその通りですが、ルーカス批判に対応するために開発されたというのは間違いだと思います。CGE分析の歴史を扱った文献では普通全く異なる説明がされています。

  • Dixon, P.B., Parmenter, B.R. (1996). "Computable General Equilibrium Modelling for Policy Analysis and Forecasting," in: Amman, H.M., Kendrik, D.A., Rust, J. (Eds.), Handbook of Computational Economics. North-Holland, Amsterdam, pp. 3–85. https://doi.org/10.1016/S1574-0021(96)01003-9
  • Bergman, L. (2005). "CGE Modeling of Environmental Policy and Resource Management," in: Mäler, K.-G., Vincent, J.R. (Eds.), Handbook of Environmental Economics. pp. 1273–1306. https://doi.org/10.1016/S1574-0099(05)03024-X
  • Dixon, P.B., Jorgenson, D.W. (2013). "Introduction," in: Dixon, P.B., Jorgenson, D.W. (Eds.), Handbook of Computable General Equilibrium Modeling. Elsevier, pp. 1–22. https://doi.org/10.1016/B978-0-444-59568-3.00001-8

例えば、上の3つはCGE分析の成立、発展の経緯を扱っていますが、3つとも「最初の CGE 分析は 1960年の Leif Johansen の研究(以下の研究)」だと主張しています。

  • Johansen, L. (1960). A multi-sectoral study of economic growth. North-Holland Publishing Co., Amsterdam.

この Johansen の研究は多部門モデルをノルウェーの産業連関表のデータと組み合せて、シミュレーション分析をおこなったもので、確かに CGE 分析と言ってもよいと思います。

[注] Johansen のモデルは多くの一般均衡モデルがそうであるように非線形のモデルですが、モデルを解く際には線形化して解いています。現在のCGE分析では非線形のモデルをそのまま解くのが普通ですので、Johansen の分析は完全な CGE 分析とは言えないのかもしれませんが、その当時は最新のコンピュータを用いるとしても非線形のモデルをそのまま解くのは難しかったのだと思います。

この本は日本語にも翻訳されていますので、大きい大学の図書館ならあるかもしれません。

  • ヨハンセン・L., (1962). 『経済成長の多部門分析』,ダイヤモンド社,西川俊作訳.

この Johansen (1960) が最初の CGE 分析であるのなら、ルーカス批判に対応するために CGE モデルが開発されたというのは明らかにおかしいです。というのは、ルーカス批判の元になった以下の論文は 1976 年出版ですので。

また、Johansen の後に続く CGE 分析の研究者としては、Herbert Scarf、John Shoven、John Whalley 等が有名ですが、彼等も既に 70 年代の前半には様々な研究をおこなっていますから、やはりルーカス批判の前です。

そもそも、Scarf、Shoven、Whalley 等のモデルは明らかにミクロ経済学一般均衡モデルに基づているもので(だから最初からミクロ的基礎付けがあるのは当たり前で)、ミクロ的基礎付けを持つマクロモデルを開発しようとしてモデルをつくったということではないと思います。

それに、もし CGE モデルがルーカス批判に対応するために開発されたのなら、マクロ経済学の分野でも CGE モデルについて言及があるのが当然だと思いますが、ルーカス批判後に開発されたものとしてマクロ経済学のテキストで言及される RBC モデルや DSGE モデルであって、CGE モデルのことなど全く出てこないと思います。

ですので、ルーカス批判への対応としてCGEモデルが開発されたという説明は全く事実とは異なると思います。

以上のように、上のページの CGE 分析の成立経緯についての説明はおかしいのですが、CGE 分析自体の説明もおかしい部分があります。

例えば、「CGE分析モデルは従来アプローチの学術的な批判を揚棄して確立した分析であることから、実務的な利用にも高い信頼性を有しています」とい説明がありますが、「従来アプローチの学術的な批判を揚棄して確立した分析である」ことが、高い信頼性があることの根拠にはならないと思いますし、(CGE 分析が専門の私が言うのもなんですが)実際、CGE 分析にそこまでの信頼性はないと思います。

また、「複数の均衡式で実体経済を正確に解析する同分析の成立過程」とありますが、CGE 分析というのは、ある意味、経済学の理論的モデルを現実の経済に無理矢理当てはめているものであって、CGE モデルに出てくる数式が実体経済を正確に解析するものになっているとは簡単には言えないと思います。

なぜ、この会社のページで CGE 分析の説明が提供されているか不思議なのですが、以上のように説明の内容は事実とは異なる不正確な部分が多いと思います。

CGE 分析がどのような分析かを知りたい人は、上で紹介した Bergman (2005) や Dixon and Jorgenson 編集の Handbook of Computable General Equilibrium Modeling を読むとよいと思います。

応用一般均衡モデルによる炭素税の地域別効果の分析

最近、↑の書籍が発売されましたが、この中に私が執筆した以下の論文が含まれています。

武田史郎(2022)「応用一般均衡モデルによるカーボンプライシングの地域別経済効果の分析」,有村俊秀・杉野誠・鷲津明由(編)『カーボンプライシングのフロンティア:カーボンニュートラル社会のための制度と技術』,日本評論社,第2章,pp 25–42.

これは、日本を10地域に分割した応用一般均衡モデル(CGEモデル)を利用して、日本における炭素税導入の地域別の効果を分析した研究です。

現在、気候変動対策の一つとして炭素税(カーボンプライシング)が検討されていますが、その経済的な影響が一つの懸念事項になっています。炭素税の経済的影響を分析するものとしてCGEモデルによるシミュレーションがありますが、通常は日本全体を一地域として扱ったものがほとんどです。しかし、炭素税の効果は地域によって大きく異なる可能性があると言われています。それは、地域によって

  • 生産構造
  • 消費構造
  • 発電の電源構成

などが大きく異なっているからです。

この分析では、そのような地域間での差を考慮できるように、日本を複数地域に分割したCGEモデルを作成した上で炭素税導入の効果(域内総生産、所得などへの影響)を分析しています。関心のある方は読んでみてください。

私の論文以外にも、多数の研究者が様々な観点からカーボンプライシングについて分析した研究が含まれています。

CGEモデルはブラックボックスか?

以下のサイト、CGE分析のレクチャーを提供する会社(組織)のサイトです。

このページの最初に以下のような説明があります。

CGE models are NOT 'black boxes'. Given an understanding of general equilibrium (GE) microeconomics, and some macroeconomics, and the ability to read a simple programming language, all model insights are ultimately obvious. GE systems may be complex, just as the world is complex; but an unwillingness to learn enough economics and a 'language' does not make a CGE model a `black box'.

「CGEモデルはブラックボックスではない。一般均衡ミクロ経済学とある程度のマクロ経済学の理解があり、簡単なプログラミング言語の理解があれば、モデルから導かれる全ての洞察は容易に理解可能だからです」というようなことが書かれていますが、ここでの「ブラックボックス」という用語の使い方はちょっとおかしいと思います。

この説明では、それについての知識がなく、理解できないことは全てブラックボックスということになってしまいます。例えば、

ということになります。しかし、こんなものは単に知識がなくて理解できないということであって、これをブラックボックスとは普通は言わないと思います。そもそも、ここで言っているような、勉強さえすれば誰でも理解できるようなもの(言い換えれば、勉強していないから理解できないもの)をブラックボックスなんて呼んでいたら、世の中ブラックボックスだらけになってしまいます。

ブラックボックスというのはそうではなく、内部の仕組みが明らかではない(公開されていない)ものを普通指すのだと思います。そして、それは勉強するということでは解消できないようなものだと思います。仕組みが明らかになっていなければ勉強しようがないですから。

ブラックボックスをこのような意味で捉えれば(これが普通の解釈だと思いますが)、(多くの)CGEモデルはブラックボックスだと言っていいと思います。というのは、CGE 分析では、分析内容(シミュレーションで利用されているモデルやデータ)の詳細を第三者が把握することができないことが多いからです。

これはCGE分析で使われているデータやプログラムが非公開になっていることが多いためであって、経済学の理論やプログラミングがわかれば解消する問題ではないです。

なぜこんなことを急に書いたかというと、最初に紹介した会社から「うちのコースを受講すればCGEモデルはブラックボックスじゃなくなるよ」という変なメールがたくさん来るからです。ミクロ経済学とプログラミングを勉強するとブラックボックスじゃなくなるって、そんなのブラックボックスでも何でもない...

この話についてはまた詳しく書きたいと思います。

ウェブサイトの移転について

2008 年からさくらインターネットでスペースを借りて、自分のウェブサイトを作成してきました。

という構成で作成していました。さくらの前は

  • ホームページ部分: レンタルスペースに手書きの HTML ファイルで作成
  • ブログ部分: はてなダイアリー

にしていました。さくらに変更したのは

  • ホームページなどいろいろ自動化したい部分があった
  • 自由度が高い環境にしたかった
  • CMS をいじってみたかった

という理由です。さくらを借りて modx + WordPress を10年くらい使ってきたのですが、最近、

  • 更新頻度が高くない。
  • セキュリティ対策などでの管理が面倒。
  • ホームページ部分は動的なページにしておく必要性がほとんどない。
  • プラグインをたくさん入れていたら、ブログが重くなってきた。
  • 「レンタルスペース + 独自ドメイン」でお金もかかる(年1万円くらいですが)

という状況になってきたので、ウェブサイトを移転することにしました。どこに、どういう形で移転しようか迷ったのですが、管理が楽な方法がいいということで

ということにしました。

新しいページは以下の通りになります。

ホームページ部分

  • github.io なので無料で使えます。ただし、静的なページしか使えません。
  • どうやって静的なページを作成するかが問題です。最近は「静的サイトジェネレータ (Static Site Generator)」というものがたくさんあるようなので、それを使うことも少し検討したのですが、新しいものをインストールしたり、覚えたりすることが面倒であってので、これまで使っていた MODX をローカルで動かして、静的なページを生成するという方法にしました。
  • これなら今までの中身をほぼそのまま利用できます。
  • MODX をローカルで動かすには、ApachePHPMySQL などをローカルで動かす必要がありますが、これは XAMPP - Wikipedia を使うことで簡単に実現できました。

ブログ部分

  • これも無料で利用できるサービスにしようと思っていたのですが、昔使っていたため使い勝手をわかっている「はてなブログ」にしました(厳密には、昔使っていたのは「はてなダイアリー」ですが)。
  • WordPress のデータをエクスポートして、それをインポートし、中身を移しました。
  • 無料の代わりに、広告がはいってしまいますが、それは仕方ありません。

一応、これまでの中身をだいたい移転しています。ただ、上手く表示できていない部分やリンク切れになってしまっている部分があるので、それは今後修正したいと思います。

応用一般均衡分析用のデータ作成プログラム

応用一般均衡分析(CGE分析)用のデータ作成プログラムを GitHub の以下の場所に置きました。

Japanese_SAM_for_CGE

これは「日本の産業連関表」と「3EID データ(CO2 排出量のデータ)」を CGE 分析で利用しやすくするための GAMS のプログラムです。具体的には次のようなことができます。

  1. 元々、Excel ファイルに入っているデータを GAMS で利用しやすい GDX ファイルに出力する。
  2. 部門の統合をおこなう。
  3. CGE 分析用の SAM を作成する。

1 と 2 の部分は GAMS のプログラムによっておこないます。3 は Excel 上でマクロ(VBA) によっておこないます。

3 で SAM の作成もできるのですが、ここで作成する SAM が自分が作成したい SAM と同じ形式とは限らないですので、SAM 作成の機能はあまり役に立たないかもしれません。CGE 分析をおこなうには必ずしも SAM を作成する必要はなく、2 の部門統合までできれば十分かなと思います。

例えば、こんなデータが作成できます ⇒ japan_2011_26x18.xlsm

データとしては、2005 年表、2011年表、2015年表の 3 つに対応しています。

これを使えば、部門の分類を変更したデータを簡単に作成できますので、日本のデータを利用して CGE 分析をしたい人には役に立つのではないかと思います。GAMS を使うと言っても、モデルを解いているわけではありませんから、GAMS のデモバージョンでも動きます。


[注]これはあくまでデータを加工するためのプログラムです。データ自体は他の方が作成してくれたものを利用しているだけです。

[注]Excel と GAMS の間のデータのやり取りに GAMS に付属の gdxxrw というプログラムを利用しているのですが、これは Windows でしか動かないので、全部の機能を使うには Windows 上で作業しないといけないです。

応用一般均衡分析入門のアップデート

『応用一般均衡分析入門』のページにある応用一般均衡分析(CGE分析)の入門用の解説書をアップデートしました。

ちょこちょこ修正はしていましたが、今回は大きく変更している部分があります。具体的には、第7章、第15章で日本の産業連関表のデータを利用していましたが、それが 2005 年表というかなり古いものであったので、今回 2015年表のデータに変更しました。

それ以外は、文章の細かな修正などが主です。


このデータのアップデートのついでに、 Japanese_SAM_for_CGE というものも作成しました。これについてはまた別の機会に説明したいと思います。

空間的応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル)

応用一般均衡モデル(computable general equilibrium model、CGEモデル)に「空間応用一般均衡モデル(Spatial CGEモデル、SCGEモデル)」というものがあります。

経済学で「空間(spatial)」という用語が使われる場合は、いわゆる「Spatial economics(空間経済学)」を思い浮べる人が多いのではないでしょうか。空間経済学は産業集積や都市形成などの要因、影響を分析するような分野です。

空間経済学 - Wikipedia

つまり、多数の地域が存在する状況において、なぜ特定の地域に産業や人が集中するようなことが起こるのか、そしてその結果、どのようなことが起こるのかを分析するような分野です。

私も昔 spatial economics の著名なテキストである以下の本を読んだので、spatial といったら spatial economy を思い浮べます。

しかし、SCGE モデルの spatial には特に上のような意味はなく、単に「multi-region CGEモデル(多地域CGEモデル)」のことを「SCGEモデル」というような呼び方をしているようです。つまり、多数の地域を含んでいて、その間で経済取引があるようなCGEモデルのことです。

例えば、https://www.mlit.go.jp/common/000144962.pdf という資料でSCGEモデルを次のように説明しています。

複数の地域を前提に、複雑に相互依存する経済主体の間を連鎖的に波及するプロジェクトの経済効果について、どの地域の、どの経済主体にどれだけの効果が帰着するのかを把握するために考案された分析手法。

この説明では「多地域CGEモデル」という以上の意味はないように思えます。

また、https://www.dpri.kyoto-u.ac.jp/hapyo/04/b32.pdf では

空間的応用一般均衡モデル(Spatial Computable General Equilibrium:SCGE モデル)は,土木計画学の分野では交通基盤整備の便益評価などに用いられてきた分析手法である.一般均衡モデルを多地域に 拡張して地域内及び地域間の経済連関性を表現し(「空間的」),実際の社会経済統計等のデータを用いて政策の効果を計算できる(「応用」)モデルと考えると分かりやすい.

と説明していて、やはり多地域のCGEモデルのことのような説明をしています。

それでは何が違うのかというと、交通や輸送などに主に焦点を当てて研究している研究者(主に工学系の研究者)は「SCGEモデル」という用語を使って、そうじゃない分野(例えば、国際的な貿易や環境など)を研究する分野の人は「多地域モデル」を使うというだけのようです。なぜ違う言い方を使うようになったのかはよくわかりません。

経済学が専門の人が「空間CGEモデル」、「spatial CGEモデル」と聞くと、産業集積か何かの研究かと思いう人が結構いるんじゃないかと思いますが、そういう意味ではないようです。

環境研究推進費のシンポジウム(2021年11月26日)

私が参加している環境研究推進費のプロジェクト「暗示的炭素価格を踏まえたカーボンプライシングの制度設計-効率性と地域経済間の公平性を目指して-」のシンポジウムが2021年11月26日(金)14:00-16:35に開催されます。

https://www.carbonpricing.net/symposium2021
https://www.waseda.jp/inst/cro/assets/uploads/2021/10/fd9c8312a867dd3aecd187198b8b97f2.pdf

私も参加し、「カーボンプライシングの地域的公平性」というタイトルで、研究の発表をおこないます。

これは、日本を複数の地域に分割した応用一般均衡モデル(CGEモデル)を利用して、日本におけるカーボンプライシング(炭素税)の導入の効果を分析した研究です。複数地域に分けたモデルを利用しているので、地域別に経済的効果を分析する内容になっています。

Zoomのオンラインで開催されるものですので、気軽に参加できると思います。関心のある方は是非どうぞ。

Excel と R と GAMS で産業連関分析

私は普段、CGE分析などのシミューレションをするのに基本的に GAMS というソフトウェアを利用しています。最近、簡単な産業連関分析を試しにしてみようとしたのですが、GAMS よりも他のソフトの方がやりやすいかもと思い、

  • Excel
  • 統計ソフトのR
  • GAMS

の3つを用いて、同じような産業連関分析をしてみました。3つのソフトを使って、同じような分析を

  • 4部門の仮想的な連関表
  • 日本の2011年の13部門表
  • 日本の2015年の185部門表

の3つの産業連関表を用いておこないました。

分析といっても、試しにやってみた程度のもので、

  • 1) 全ての財の最終需要が10%増加するシナリオ
  • 2) 建設という財への最終需要が500億円増加するシナリオ

というだけの本当に簡単な分析しかしていません(モデルも輸入を外生的にした最も単純なモデルです)。

Releases · ShiroTakeda/IO-analysis

プログラム、データは上の場所にある Source code (zip) というファイルにプログラムが入っています。

ファイルの解説

  • IO_analysis.xlsx

    • これが Excel を用いて分析しているファイルです。
  • IO_analysis_1.r、IO_analysis_2.r、IO_analysis_3.r

    • この3つが R を使ったプログラムです。
    • それぞれ、sample_IO_data_1.txt、sample_IO_data_2.txt、sample_IO_data_3.txt をデータに用いています。
  • IO_analysis_1.gms、IO_analysis_2.gms、IO_analysis_3.gms

    • この3つが GAMS を使ったプログラムです。
    • GAMS のプログラムは sample_IO_data.xlsx のデータを用いています。

どれも同じデータを使って、同じシミュレーションをしているので、当然ですが同じ結果が出てきます。

Excel

ここでの ExcelVBAは用いずに、関数だけを使っています。関数を使っているだけなので単純で、わかりやすいのですが、大規模なデータを用いる、あるいは複雑なシミュレーションをするのはやはり難しいと思います。Excel で複雑なシミュレーションをするのなら VBA が必要になると思います。日本で産業連関分析をおこなっている人の多くは以下の藤川先生の本を参考にしていると思いますが、この本は Excel + VBA で産業連関分析をする方法を解説していますので、産業連関分析をしている人の多くは Excel + VBA を用いているのかもしれません。

統計ソフトR

R は普段使うことがなく使い方をほとんど知らないので、(当たり前ですが)プログラムを書くのに手間がかかりました。特に行列のデータを外部のファイルから読み込む方法がなかなかわからず困りました。

Google で検索すると、データフレームの形式のデータを読み込む方法はたくさん見つかるのですが、行列のデータを読み込む方法はなかなか見つからなかったです。R は統計分析をすることが主な用途のソフトですから、行列の演算をする人はあまりいないのかもしれません(?)

R は無料ということもあってか、非常にユーザー数も多いようで、使い方を解説したウェブページが山ほどあります。ただ、同じような初歩的なことを解説したページが多いので、逆に検索しにくかったです。上で書いたように、外部のファイルにある行列データを読みこむ方法を探したのですが、なかなか見つからず、結局、英語のページを検索してやっと見つけました。

産業連関分析というと、モデルを行列で表現し、行列の演算を用いることが多いと思いますが、R で行列表現のデータが利用できるので、一度、データを行列に入れてしまえばあとは簡単です。例えば、A と B という行列があった場合、

A %*% B

で行列の積が計算できますし、

solve(A) 

でAの逆行列が計算できます。産業連関分析では行列の四則演算と逆行列の導出さえわかればだいたい済むと思います。

GAMS

GAMS におけるデータの型は基本的に「配列(もしくは、スカラー)」であって、直接行列を表現することはできないです。R では A や B という変数で行列を表し、A %*% B で行列の積を表すことができましたが、GAMS ではそういうことはできないです。

しかし、二次元の配列を使えば実質的に行列、及び行列の演算を表現できます。

例えば、a(i,j) と b(j,k) という二つの二次元の配列を定義し、a(i,j) は行列の (i,j) 要素、b(j,k) は行列の (j,k) 要素を保持するという形にすれば、a と b は実質的に行列です。

R のように「a x b」のような形で二つの行列の積を表現することはできないのですが、

c(i,k) = sum(j, a(i,j) * b(j,k)) 

という式によって、a と b の積である c という行列(の i-k 要素)を表すことができます。つまり、行列の積という演算もおこなえます。

三つの行列の積(a * b * c)となると

d(i,l) = sum(k, sum(j, a(i,j) * b(j,k)) * c(k,l))

のような式で計算できます。掛け合せる行列の数が増えるとちょっと式が長くなり大変ですが、二つ、三つくらいの行列の式でしたらそれほど複雑にはなりません。

また、産業連関分析では逆行列を計算する演算が必要になります。GAMS では直接逆行列の計算はできないのですが、付属の外部プログラムである invert.exe というプログラムを利用すれば計算ができます。

ですので、

  • GAMS のプログラムで行列を作成
  • その行列を GDX ファイルに出力
  • invert.exe を呼出して GDX ファイルの行列の逆行列を計算し、別の GDX ファイルに出力
  • GAMS のプログラムで GDX ファイルから逆行列を読み込む

というような手順を踏むことで、逆行列の計算という演算もおこなえます。ちょっと面倒に見えるかもしれませんが、実際のプログラムではたいしたことはないです(IO_analysis_1.gms などを見ればわかると思います)。

どれが使いやすいか?

産業連関分析というと

など、様々なソフトウェアが使われていると思います。上で書いたように「Excel + VBA」はよく使われていると思いますし、行列表現ができるので統計ソフトのRも使われているのではないかと思います(フリーソフトウェアですし)。GAMS は産業連関分析にはあまり向いていないかなと思っていたのですが、今回、プログラムを書いてみて、GAMS も案外連関分析には向いているのではなかと思いました。私は元々GAMSを使い慣れていることもあるのですが、それを差し引いても、言語の特徴などからしてGAMSで産業連関分析はかなりやりやすいように思いました。

CGE 分析をするために GAMS を持っている人は、連関分析をする場合にも GAMS を使うといいかもしれません。

[注] 上においてあるサンプルのプログラムは無料のデモバージョンのGAMSでも実行できます。GAMS は大きいモデルを扱う場合はデモバージョンでは解けないのですが、このプログラムではそもそもモデルを解いたりする作業(例えば、最適化問題を解くだとか、連立方程式を解くだとか)がないので、デモバージョンでも計算できてしまいます。