[追記]以下と同じようなことを https://shirotakeda.github.io/ja/research-ja/cge-howto.html にある「Part 2: 一般均衡モデル」という文書にも書いています。そちらの方が読みやすいと思います。
例えば、
- I 財 (), F 要素 ().
- 完全競争、規模に関して収穫一定、中間財なし
- 閉鎖経済
というようなモデルを考えます。
を 財の価格, を要素 の価格, を所得 (= 要素所得), を 財の生産量, を要素 の賦存量 (外生的), を 財の単位費用関数, を 財に対するマーシャルの需要関数 (非補償需要関数) とすると、均衡条件は次式で与えられます。
一本目は生産の利潤最大化条件、二本目は財市場の均衡条件、三本目は要素市場の均衡条件、四本目は所得の決定式です
がこの均衡条件を満たす (つまり、モデルの解になっている) とします。
ここで、 とし、 という関係を持つ という変数を考えます。
このとき、 は均衡条件を満たすでしょうか? 答えから言うと, も均衡条件を満たします。つまり、元の価格を定数倍した価格も均衡価格となります。
これを確かめてみましょう。
ですが、単位費用関数 の投入物価格についての一次同次性より
となります。また、 の一次同次性より はゼロ次同次と なりますから、
が成り立ちます。次に、
ですが、今度はマーシャルの需要関数の価格と所得についての 0 次同次性より
が成り立ちます。
最後に、
となりやはり満たされます。
つまり、 が均衡条件を満たすのなら、任意の について、 も満すということです。これは均衡価格(名目値)が均衡条件体系において0次同次の関係を有していることを意味するので、均衡価格の0次同次性と呼ばれます。これから「名目価格の絶対水準は不決定」という命題が導かれます。
ここでは中間財なし、閉鎖経済、完全競争モデルを仮定しましたが、これは中間財あり、開放経済(or 多地域)、不完全競争でも、一般均衡モデルにおいて成り立つ一般的な性質です。というのは上で利用しているのは、単位費用関数の一次同次性とマーシャルの需要関数のゼロ次同次性で、これは要するに
- 価格が2倍になっても投入物の価格も2倍になるなら企業の行動は変わらない。
- 所得が2倍になっても財の価格も2倍になるなら消費者の行動は変わらない。
ということで、合理的な経済主体を前提とするようなモデルでは普通この性質が成り立つと仮定するからです。
逆に言えば、経済主体の行動が名目値の絶対水準に依存してくるモデル、例えば、効用が「消費量」ではなく「消費額」に依存するモデル、生産量が「投入量」ではなく、「投入額」に依存するモデルであれば、均衡価格のゼロ次同次性は成り立たなくなります。ただ、特別な理由がない限り普通はそのような一般均衡モデルは使わないと思います。特に、ミクロ経済学の一般均衡モデルでは(マクロ経済学での一般均衡モデルではよく使うのかもしれませんが、最近はマクロ経済学でもミクロ経済学のモデルをベースにした実物的なモデルが多くなってきているようですから、やはりあまり使わないのかもしれません。詳しくないのでわからないです)。
なぜこのようなことを長々と説明したかというと、CGE分析をするときに「名目価格がどうなるのか知りたい」ということを聞く人がよくいるからです。最近も私が作成したCGE分析のモデルについて「計算では実質の価格(相対価格)しか求めていないが、名目価格を求めるにはどうすればいいのか?」という質問をもらいました。価格についてのゼロ次同次性が成り立つモデルであるので(何か特殊な想定を置かない限り)名目価格は求めようがないというのが答えです。
ミクロ経済学で一般均衡モデルを勉強していれば、一般均衡モデルにおける均衡価格のゼロ次同次性は当たり前のことですが、CGE分析をする人には理論のことはよく知らないがシミュレーションをしたいという人がいるので、そういう質問が多いのだと思います。