応用一般均衡分析(CGE分析)の解説文書のこと

「このページ」にCGE分析の解説文書を置いています。まだまだ追加したい内容があって途中なのですが、こういう解説文書を作成している理由を書いておきたいと思います。

まず、CGE分析についてはテキストや解説書がもともと非常に少ないという理由が一つです。これは日本語のものに限った話ではなく、英語のものでもそうで、まとまった形でCGE分析について解説したものは日本語でも英語でも非常に少ないです。これが自分で解説書を書こうと思った一つの理由です。

ただ、少ないとは言っても、一応テキスト、解説書はあります。その中で特に日本人に読まれているものというと

というテキストだと思います(このテキストには英語版もあるので、もしかしたら海外でもかなり読まれているかもしれません)。

このテキスト(以下、細江テキスト)は、CGE分析について一通り必要なことを解説していて、しかもGAMSでそのCGEモデルを実装したコードも提供していますので、これを読めばCGE分析について一通り理解できるのと同時に、自分でもCGE分析をできるようになるという内容になっています。CGE分析を勉強するにあたって最初に読むのには非常によい内容だと思います。ただ、細江テキストではちょっと物足りなく感じる部分が幾つかあります。一番は、このテキストで学べる(紹介されている)CGEモデルと温暖化対策の分析という分野で利用されているCGEモデルに大きい差があるという点です。温暖化対策分析で利用されているCGEモデルとは、具体的には温暖化対策のCGE分析で有名なThomas F. RutherfordやChristophe Bohringer等の研究者が利用しているモデルや、これもまた有名なMITのEPPAモデル等のことです。

そもそも細江テキストでは温暖化対策分析用のCGEモデルを扱っていないのだから当然なのですが、テキストのモデルと温暖化対策析用のCGEモデルでは、生産関数の設定、エネルギーの生産・投入・技術の扱い、投資の扱い等の点がかなり違います。ですので、もし温暖化対策のCGE分析をしたいのなら、細江テキストで学んだ後に、Rutherford、Bohringer、EPPAモデル等の論文や解説書を読み、温暖化対策のCGE分析ではどのようなモデルが利用されているかを学ぶという手順をとるのが望ましいと思います。しかし、それができるかというと、なかなか難しいようです。その一つの理由はRutherford、Bohringer、EPPAモデルと細江テキストのモデルではモデルの記述方法が異なるためです。具体的には、前者では、費用関数、ヒックスの需要関数等を用いる双対アプローチを使ってモデルが記述されているのに対し、細江テキストでは生産関数やマーシャルの需要関数を用いる通常のアプローチでモデルが記述されています。双対アプローチは理論分析ではよく利用されていますが、一般的にはそれほど理解されていないこともあって、Rutherford、Bohringerのモデル、EPPAモデル等を参考にするということがちょっと難しいようです。

このように「細江テキスト→温暖化のCGE分析」と進むのには少し壁があり、温暖化対策の分析に実際に利用されているCGEモデルにもう少し近い段階まで学べるような解説書があればいいと思ったのが自分で解説書を書こうと思った理由です。ですので、私の解説書では基本的にRutherford、Bohringerのモデル、EPPAモデル等と同様に双対アプローチによってモデルを記述しています。

温暖化対策分析のCGEモデルを理解できるようにするといっても、温暖化対策分析のCGEモデルをそのまま解説するという内容ではないです。そうではなく、Rutherford、Bohringerのモデル、EPPAモデルを自分で理解するのに必要な知識を身に付けるという内容にしたいと思います。彼等のモデルを自分で理解し、コードを読めるようになれば、後は自然に自分でモデルを作成できるようになると思います。

また、プログラムのデバッグについて詳しく説明したいとも思います。自分でモデル(プログラム)を作成していく場合には、すんなり意図したモデルを作れるということはほとんどなく、最初は間違いだらけで、まともに上手くプログラムが動かないということがほとんどだと思います。しかし、そのような場合にどうやってモデルを修正(デバッグ)していくかがわからずつまづいている人がかなりいます。私はCGEモデルについて質問をもらうことがあるのですが、その多くは「自分でモデルをつくってみたが、上手く解けない。でも、どこが問題なのかがわからないし、問題の部分を見つける方法もわからない」という質問です。この解説書では、そういったモデルをデバッグしていく方法(ノウハウ)についても詳しく扱おうと思っています。

今は忙しくてなかなか進まないですが、だんだん追加していきたいと思います。