温暖化対策の中期目標についての野村先生のコラム

【温室効果ガス 30%削減の衝撃】(1)民主案 36万円家計負担増 (1/3ページ) - MSN産経ニュース

という産経新聞の記事で、中期目標検討委員会でまとめられた温暖化対策費用の試算の話がとりあげられています。特に負担の中の「可処分所得」と「光熱費」を巡って議論が起こっているようです。

一般の人からするとGDPやら限界削減費用より、世帯当たりの「可処分所得」や「光熱費」がどうなるかということのほうが実感が湧きやすいということで、特にこの数値が注目されるのだと思います。

中期目標検討委員会の温暖化対策費用の試算については、地球温暖化対策の中期目標について:「中期目標検討委員会」の分析結果の概要 (pdf)という資料にまとめられています。上の記事に載っている数値は、この資料の8ページ目の数値です。

この8ページ目に「分析結果は、日本経済研究センター一般均衡(CGE)モデル(失業率はマクロモデル)の分析結果」と書いてあります。確かに「GDP」、「設備投資」、「限界削減費用」等は日経センターで計算した値で、私も手伝ったのですが、上で議論になっている世帯当たりの「可処分所得」、「光熱費」の値は、日経センターで出した数値を基に内閣官房が独自に計算したものです。

この「可処分所得」、「光熱費」の値の解釈について、↓のページで慶応大学の野村浩二先生がコラムを書いています。

bp special ECOマネジメント/コラム

野村先生は中期目標検討委員会のモデル分析(経済モデル)に参加していた方です。中期目標検討委員会での試算について深く理解したい人には非常に参考になるコラムだと思います。

□ おまけ

上のコラムに

日経センターのモデルで可処分所得として緩和される効果が群を抜いて高いのは、そのモデル評価において、経済のすべての主体が炭素削減のためのエネルギー価格の高騰の結果、追加的に負担した費用、そのすべてを家計に戻した姿を可処分所得としているからである。炭素税が課されていると考えれば、1~2兆円もの税収のすべてが家計に還流した後の姿であると言ってもいい。経済モデルの評価としては、それは一つの方法であるものの、家計の負担としてこの数字を解釈することは誤解を与えると言わざるを得ない。

と書かれています。これは野村先生の試算(KEOモデルによる試算)に比べ、日経センターのCGEでは可処分所得への影響が非常に小さいという点についての話です。

まず、一つ。「1~2兆円の全てが家計に還流した後の姿であると言ってもいい」と書かれていますが、日経センターのCGEでは、

  • 限界削減費用(=排出権価格)=約14,000円/CO2一トン
  • 排出量取引の対象になるCO2排出量(これは総排出量より少)=847MtCO2

ですから、排出権収入=排出権価格×CO2排出量=「約12.3兆円」です。還元されている額は「1~2兆円」よりずっと多いです。

2点目。家計にそのまま排出権収入を還元していることにより家計の負担が軽くなっているのはその通りなのですが、排出権収入をどのように処理するべきかは議論のあるところだと思います。いずれにせよ排出権収入の処理の仕方はどのモデルでも共通にしておいた方が良かった思います。

ちなみに、KEOモデルでは「排出権(炭素税)収入は国債の償還に利用」と仮定しているそうです(モデル分析ワーキングチームの会合ではそういう説明だったと記憶していますが、もしかしたら違うかもしれないです)。

上で挙げた数値は

http://www.jcer.or.jp/report/discussion/detail3875.html

の論文、プログラムで確認できます。