新しい GTAPinGAMS(GTAP9用)

もうリリースされてからかなり経つのですが、

LANZ, Bruno; RUTHERFORD, Thomas F. GTAPinGAMS: Multiregional and Small Open Economy Models. Journal of Global Economic Analysis, [S.l.], v. 1, n. 2, p. 1-77, dec. 2016. ISSN 2377-2999. Available at: https://jgea.org/resources/jgea/ojs/index.php/jgea/article/view/38. Date accessed: 21 may 2017. doi: http://dx.doi.org/10.21642/JGEA.010201AF.
という論文のページに新しい GTAPinGAMS が置いてあります。

GTAPinGAMS とは CGE 分析の研究者として著名な Wisconsin 大学の Thomas F. Rutherford 教授らが作成している GAMS 用のプログラムで

  • GTAP データを GAMS で利用するためのデータ変換・調整用のプログラム
  • シミュレーションのサンプルプログラム

の二つから構成されるものです。CGE 分析において GTAP データを利用するが、プログラムは GAMS で作成したいという人にとっては非常に便利なツールです。私もずっと昔から利用させてもらっています。

現在の最新の GTAP データは GTAP9 データで、GTAP9 データに対応した GTAPinGAMSは既に公開されていましたが、上のページに置いてある新しい GTAPinGAMS では修正と追加的なプログラムが加えられています。特に、「シミュレーションのサンプルプログラム」には二つの大きな改善が加えられています。

以前のサンプルプログラムでは、代表的家計の効用関数に CES 関数を仮定した多地域モデルしか提供されていなかったのですが(それだけでも有用なものでしたが)、新しい GTAPinGAMS では次のようにモデルの設定を選択できるようになっています。

  • 1) GTAPモデルのようなグローバル多地域(global multi-region)モデルに加えて、小国開放(small open economy)モデルも選択可能
  • 2) 消費者の需要の表現として、これまでの CES 型効用関数に加え、「LES(linear expenditure system)」、GTAPモデルで利用されている「CDE(constant difference)関数」も選択可能

まず、1) についてですが、これまでのモデルでは政策を導入したときに、その政策の直接的な効果に加えて、「交易条件効果」という間接的な効果も生じてしまい、どれだけが直接的な効果によるもので、どれだけが間接的な効果によるものかを判断することが難しかったのですが、小国の設定にしてシミュレーションをすることで交易条件効果を除外することができるので、直接的な効果がどれだけかを明かにできるようになっています。また、2) については、温暖化対策を分析する多地域 CGE モデルでは LES を仮定するものが多いですし、GTAP モデルでは CDE 関数を仮定していることから、著名なモデルと同じ設定を容易に試すことが可能になっています。どちらもシミュレーション分析をする際に非常に役に立つ修正だと思います。

他にも以前のバージョンからの細かい修正点として、データの変換・統合プログラムの修正があります。これまではデータを変換したり、統合したりするコードを実行するのに DOS のバッチファイル(その中で GAMS を呼出すプログラム)を実行するという形になっていましたが、新しい版では全て通常の gms ファイルを GAMS で実行するという形になっています。モデルは通常の MCP ソルバー用に書かれたものと、MPSGE 用に書かれたものの二つが提供されています。

説明書もプログラムもかなり長いので読むのが大変ですが、GAMSでGTAPデータを用いた多地域CGEモデルのシミュレーションをしたい人にはすごく役に立つものだと思います。